矯正治療前後及び保定後の、歯牙の移動方向や量を正確に知るには、経年的変化の少ない重ね合わせの基準となる場所が必要であるが、上顎では口蓋の高部、すなわち最深部から5mmから6mmが変化の少ない場所であると報告されている。今年度は治療前、治療後、保定後の3模型の口蓋面観の形態を3次元非接触式レーザーディジタイザーにて計測しCamandにて画像表示し形態的に安定した高口蓋部で重ねる専用のプログラムを開発した。 1.資料の計測:レーザーディジタイザーを用いて1症例につき治療前、後、保定後の3個の上顎模型の計測を行った。咬合面に対してほぼ平行に基底面を削りこの基底面を下にして模型台の上に設置し、口蓋の正中に対してほぼ直角に0.1mmピッチで走査線を走らせ、全歯牙および口蓋面のデータを取り込んだ。計測の前に3個の模型に正中口蓋縫線を引き、これに対して左右の第一口蓋雛壁内側端から垂線をおろし後方の点をAとした。第二口蓋雛壁および第三口蓋雛壁についても同様に垂線を引き後方の点をB、Cとした。 2.重ね合わせ法の開発:高口蓋部での重ね合わせ面の差が最少になる部位で模型を重ね合わせるプログラムを作成した。まず、基準となる模型を決定し、口蓋正中部のAとBとCを含む面を表示し、これと模型口蓋面の交わる線を正中口蓋線として抽出する。この切歯切端部から上顎第二大臼歯遠心部までの後方3/4の範囲で、前後各20%ずつを除いて中央60%の部分を固定ラインとして抽出する。移動する模型についても正中口蓋線を抽出し、後方20%の部位を移動ラインとして後方端で固定ラインに乗せ、移動ライン上を前後させ、さらに上下5度の範囲で角度をかえ、最小値探索法により両曲線の2点間の距離の平均値(Average distance)が最小になる、すなわち重なる部位を探す。次に、X軸方向からも同様の探索を行い、2点間の距離の平均が最小になるように重ねあわせる。こうしてAverage distanceを求めたところ、0.1mm以下でありほぼ重ね合わせることができた。今後、模型の数を増やしこれを検証してゆく予定である。
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