研究概要 |
我々は機械的伸展力を加えている歯根膜細胞に低出力半導体レーザーを一定時間照射すると、多量に産生されていたPGE_2が著しく抑制される結果を得ている(Shimizu et al.,J Dent Res74:1382-8,1995)。PGE_2はその律速酵素である1型、2型シクロオキシゲナーゼ(Cox1,2)により合成が制御されており、またIL-1βにより誘導されることも報告されている。そこでこれらCox1、2、IL-1β、IL-1βコンバーティングエンザイム(ICE)、IL-1βレセプター(IL-1βR)についてレーザー照射に対する影響を遺伝子発現レベルで解析した。 健全なヒト小臼歯より歯根膜を採取し、アウトグロースさせたヒト歯根膜由来細胞を底面が柔軟な培養ディッシュ(Flexcell社製)に培養し、同社コンピューター制御のFlexercell strain unitを用いてディッシュ底面を吸引変形させ、培養細胞に18%の伸展力を加えた。同時に、Ga-As-Al半導体レーザーを毎日1回10分(36J)照射し、PGE_2やIL-1βの産生量を測定した。各処理を行った歯根膜細胞よりAGPC法によりtotalRNAを抽出し、RT-PCR法により、上記遺伝子を増幅した。反応液をアガロース電気泳動しethidium bromideで染色した後、紫外線イルミネーター照射下でゲルを写真撮影し、デンシトメーターにより判定量的に評価した。 伸展力を加えた歯根膜細胞はPGE_2やIL-1βを3日目より産生したが、これらはレーザー照射により顕著に抑制された。判定量的PCR法による検討では、3日間の伸展力によりCox2遺伝子発現が強く誘導されたが、レーザー照射により顕著に抑制された。一方、Cox1遺伝子発現は伸展力やレーザー照射により影響されなかった。また伸展力により増大したIL-1β、IL-1βR遺伝子発現もレーザー照射により顕著に抑制された。しかしながらICE遺伝子発現は伸展力やレーザー照射により影響を受けなかった。上記実験によりレーザー照射はヒト歯根膜細胞のCox2、IL-1β、IL-1βR遺伝子発現を抑制することによりPGE_2産生を抑制することが示唆された。
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