矯正的歯の移動と生理的歯の移動方向との関係を検討する目的で、生理的に遠心移動していると言われているラット上顎臼歯を近心あるいは遠心方向に牽引し、歯槽骨改造の初期の組織変化について骨芽細胞と破骨細胞の動態を中心に比較検討した。 (1)牽引側について:近心移動では、骨吸収が盛んに行われている歯根遠心側の歯槽骨面が牽引され、骨吸収から骨形成に逆転した。多核の破骨細胞が吸収窩表面から離れ、吸収窩表面にはセメントラインが観察された。これらの破骨細胞は核が不定形で、空砲が多く存在し変性傾向を示していた。さらに時間が経過するとセメントライン上に骨芽細胞が出現し、凹状の吸収窩を埋める新生骨の添加が観察された。 遠心移動では、常に骨形成が行われている歯根近心側の歯槽骨面が牽引され、骨形成がさらに活性化した。立方形で広いゴルジ野を有する骨形成能の高い骨芽細胞が多数骨表面に観察されるようになり、次第に平坦な骨表面上に柱状の新生骨が形成された。 (2)圧迫側について:近心移動では、歯根近心側で骨形成から骨吸収へと逆転し、骨表面に接した単核の破骨細胞が出現し始め、その後多核の破骨細胞が盛んに吸収窩を形成していた。 遠心移動では、歯根遠心側の骨吸収面がさらに圧迫され、多核の破骨細胞が時間の経過とともに骨表面および骨髄腔内面に多数出現して吸収窩を形成し、骨吸収が活性化されていた。 本研究の結果より、牽引側および圧迫側における移動初期の歯槽骨の改造変化は、歯の移動前の骨改造状態により異なっていることが明らかになった。
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