知的障害者の歯科治療においては、無痛的な処置が患者の協力性を得るための行動管理の上で最も重要である。この無痛的な処置を行うためには、種々の処置の中でも注射手技そのものの無痛化が不可欠である。本研究では、静脈注射時の無痛化と、口腔内局所麻酔注射時の無痛化について研究を行った。静脈注射の無痛化については、10%リドカインのイオントフォレ-シスを10分間行った後にpH 7.4に調整した2%リドカインの皮内浸潤麻酔を追加し、その後に無痛的に静脈穿刺する方法について、まず成人ボランティア25人について調査した。調査方法は同一被験者の左右一方の手背静脈をこの方法による実験側、反対側には60%リドカインテープを1時間貼付して対照側としVAS値を比較した。この結果、対照側のVAS値により有意に実験側は低下し、しかもVAS値(0)すなわち「無痛」と答えたものが75%を占めた。この結果に基づき、さらに実際の臨床での効果を調査した。臨床応用については、現在市販されている機材および薬剤を使用した。このためpHは無調整のものを使用し、イオントフォレ-シスの装置も市販されているものを使用し、その他は同一方法で行った。対象は検査のために静脈血採血を行う必要であった場合または静脈内鎮静法が必要であった知的障害者40名であった。効果の判定はMcGrathのFaicial Scaleを用いて行った。その結果的85%が平静に静脈注射を受け入れた。これらの結果は平成9年度の日本小児麻酔学会および日本障害者歯科学会にて報告した。口腔内局所浸潤麻酔については、4%リドカインペーストによるイオンフォレ-シスとpH 7.4に調整した2%リドカインの局所浸潤麻酔を行った場合と、60%リドカインテープを10分間、口腔粘膜に貼付した後にpH 7.4に調整した2%リドカインの局所浸潤麻酔を行った場合を同一成人ボランティア25人について調査した。どちらも著しい減痛効果が認められたがpH 7.4に調整した2%リドカインの局所浸潤麻酔後に違和感を訴える症例が若干認められたため臨床応用にはさらに検討を要するという結論を得た。これについては日本障害者歯科学会にて報告した。
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