有糸分裂阻害剤は微小管構成蛋白であるチューブリンに結合し、その重合を妨害することにより細胞毒性・抗腫瘍活性・抗かび活性等を発現する。本研究では有糸分裂阻害剤キュラシンA、ウスチロキシンDの活性最小構造の解明を目指し、これまでに以下の成果を得た。 1、キュラシンおよびその類縁体の合成 キュラシンAはらん藻Lyngbya majusculaの生産する新規な抗腫瘍性有糸分裂阻害剤であり、特徴的なシクロプロパン環とチアゾリン類、脂質部分より構成されている。すでにゲラニオール、システインを原料としてキュラシンAの全合成に成功し、その過程でシス-2-メチルシクロプロパンカルボン酸の酒石酸からの不斉合成法を開発した。また新しい反応系であるMgBr_2・Et_2O-Me_2S系でのPMBエーテルの脱保護反応を開発することができた。さらに種々の側鎖類縁体を合成し活性発現に必要な構造について検討を行い、側鎖の長さと不飽和結合の存在が重要であることを見い出した。 2、ウスチロキシンおよびその類縁体の合成 ウスチロキシンDはUstilaginoidea virens Cookeにより引き起こされる稲の病害の稲こうじ病に侵された籾から単離された有糸分裂阻害剤である。活性に必要な構造因子はすべて核となる中員環上に存在していると考えられていた。チロシン、セリン、バリンを原料としてウスチロキシンモデル化合物のセコアミノ酸ペンタフルオロフェニルエステルを合成し、その高度希釈下における分子内アミノリシス反応により、13員環環状ペプチド骨格の構築に成功した。さらに脱保護によりウスチロキシンD類縁体へと構造変換を行い、環状ペプチド構造だけではなく、グリシン側鎖残基の存在も活性に重要であるという知見を得た。
|