研究概要 |
昨年度の研究において,われわれが開発した[3+2]アニュレーションの反応機構のアウトラインを明らかにすることができた.すなわち,アクリロイルシランのβ位置換基のα-アニオン安定化能の違いに依存する二つの経路を経て進行するもので,アニオン安定化能が大きいフェニルチオ基の場合は非局在化アリルアニオン中間体を,一方,フェニルチオ基に比べてアニオン安定化能が小さいβ-トリメチルシリル体では,ビニルシクロプロパノレートを生成した後そのオキシアニオン加速ビニルシクロプロパン転位を経てシクロペンテノールを与えるというものである.しかし,ビニルシクロプロパノレートの立体化学に依存せず1種類のシクロペンテノールを与える立体過程は,協奏的1,3-シグマトロピー転位では説明が困難であり,不明であった. 今年度は,このオキシアニオン加速ビニルシクロプロパン転位の立体化学をコントロールする因子として,五配位型のケイ素を含むキレーションに着目し,次のような二つの実験を行った.一つは,溶媒の極性の低下によるキレーション構造の不安定化を利用するもので,テトラヒドロフランからトルエンに置き換えることにより,予想通りの結果を得ることができた.二番目は,ケイ素上の置換基として五配位型構造を安定化するフェニル基を持つ化合物を合成し反応を行った.その結果,ケイ素のキレーションの介在を示唆する結果が得られ,われわれの提出した仮説を証明することができた.
|