研究概要 |
平成8年度の研究実績:我々は申請課題、“遷移金属触媒によるアジリジン類の異性化反応の開拓と高活性イソスターの合成への展開",を遂行するため、この異性化反応が理論及び実用性の両面から系統的研究がなされてない未開拓領域であることをふまえ、以下の検討を加え,ほぼ所期の目的を達成した。 1.アルケン・イソスターを選択的に合成するのに必要なアジリジン環の3位にアルキル基を持つ2-ビニール・アジリジン系化合物を合成するのに先立ち、非経験的分子軌道法(ab initio)により2,3-トランス体の方が2,3-シス体よりも安定か否か、またそのエネルギー差はどの程度かを検討した。計算では予想通り確かに1位に置換基を持たない2,3-ジアルキル・アジリジン類は2,3-トランス体のほうがエネルギー的に安定である。しかし、アルケン・イソスターを選択的に合成するのに必要な1位に置換基を有する3-アルキル-2-ビニル・アジリジン系化合物では全く反対の結果,即ち2,3-シス体の方が安定ということを明らかにした。 2.アルケン・イソスターを選択的に合成するのに必要な3-アルキル-2-ビニール・アジリジン系化合物の2,3-シス体の方が2,3-トランス体よりエネルギー的に約1kcal/mol2,3-シス体の方が安定であることを明らかにした。 3.2の結果を基礎にしてアルケン・イソスターを合成するのに必要である窒素をalkylsulfonylまたはarylsulfonyl基で保護したホモキラルな3-アルキル-2-ビニール・アジリジン系化合物を主として光学活性アミノ酸またはキラルな2,3-エポキシ・アルコールから合成した。 購入した設備備品である電気水浴(一台)は、ホモキラルな3-アルキル-2-ビニール・アジリジン系化合物の合成において、溶媒の留去等に十分に活用した。 4.今日の化学的手段では3-アルキル-2-ビニール・アジリジン系化合物の2,3-シス体または2,3-トランス体のうち2,3-シス体のみを一方的に得る事は困難であるので、副生した2,3-トランス体を2,3-シス体に変換することを検討した結果、パラジウム系の触媒存在下において、2,3-シス体および2,3-トランス体の混合物から2,3-シス体を選択的に合成することができることを明らかにした。 5.ホモキラルな2,3-シス3-アルキル-2-ビニール・アジリジン系化合物より医薬品として重要なアルケン・イソスターの効率的合成ルートを開拓した。
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