ラセミ体乳酸エチルの水酸基をベンジル基で保護し、エステル部分を還元してラセミ体乳酸アルデヒド1を合成した。まず1とジエチルホスホノ酢酸エチルのアニオン(BuLiより調整)を用いるHorner-Emmons反応を種々のキラル触媒存在下に行った。Horner-Emmons反応においてはジエチルホスホノ酢酸エチルを用いるとトランス体が主に得られ、その選択性はブチルリチウムなどのLi塩基を用いたとき最も高いことがわかっている。このためキラル触媒としてはリチウムへの配位能力が大きく、立体制御が可能なものを選ぶこととし、乳酸エチル、スパルテインを用いることとした。反応温度(-78度、-78度〜0度、0度、0度〜室温)や溶媒(THF、トルエン)、キラル触媒などの種類によりトランス:シス比は大きく変化したが(3.7:1〜42:1)、光学純度についてはほぼゼロであり、ほとんど不斉反応は起こらなかった。次に1とBuLiより調整したジフェニルホスホノ酢酸エチルのアニオンを用いるHorner-Emmons反応を行った。これについても反応温度、溶媒等検討したが不斉反応は起こらなかった(シス:トランス=5〜6:1)。一般にジエチルホスホノ酢酸エチルを用いた場合には平衡によりトランス体が主に生成し、ジフェニルホスホノ酢酸エチルを用いると平衡を起こすことなく反応するためにシス体が主に生成すると言われている。これらのことより初めのアニオンについても中間体アニオンについても不斉環境の構築がうまくいっていないと考えられる。そこでより不斉環境の構築がうまくいくようにS-ビナフトールをリン酸エステル部分に組み込んだS-ビナフチルホスホノ酢酸エチルを合成し、これとラセミ体乳酸アルデヒドを反応させることとした。しかし、反応条件や塩基について種々検討したにもかかわらず、不斉収率は20〜30%eeと低いものであった。
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