1.ジアステレオ選択的ラジカル環化反応の基礎研究の一環として、光学活性フェニルシクロヘキサノールおよびカンファースルホン酸より合成されたノルボルネオール誘導体を不斉補助基とする光学活性α、β-不飽和エステルへの分子内ラジカル環化反応を検討した。これまで8-フェニルメントールを用いて観測されたジアステレオ選択性(最高98%de)と比較したところ、選択性は低く(10-20%de)、叉ルイス酸による選択性の向上も観測されなかった。今後、更に両対掌体が入手可能なキラル補助基の開発が必要である事が判明した。 2.光学活性α、β-不飽和エステルへのトリアルキルスズラジカルのジアステレオ選択的付加反応を検討した。8-フェニルメントールを不斉補助基として用いた場合、高い選択性にて付加反応が進行した(75-90%de)。本反応を低温条件にて進行させるにはルイス酸の転化が必要であり、その際不飽和エステル上置換基が嵩高いほど選択性は向上した。得られた光学活性β-トリアルキルスタニエルエステルは、フェニルグリニア試薬を反応させた後、酸処理により光学活性シクロプロパン誘導体へ変換された。ここで得られた光学活性トリアルキルスタニルエステル類は光学活性炭素アニオン種の前駆体と見做すことができ、その性質および利用に関する研究は、今後炭素アニオン種を用いる研究の発展に寄与するものと考えられる。 3.(R)-(+)-プレゴンより得られるヒドロキシチオールは不飽和エステルを有するアルデヒドと反応しアセタールを与えた。本アセタールをベンゾフェノン存在化、紫外線照射するとアセタール構造中のメチン水素の引き抜きによりラジカル種が発生し、環化反応によりシクロペンタン環の形成が観測された。本環化反応におけるジアステレオ選択性は10%de以下であり、環化の際のアキサチアン環のコンホメーション固定が重要であることが示唆された。
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