本年度は、薬物の定量的構造活性相関のためのデータを利用して、階層型ニューラルネットワークの予測性の検討、及びその改良に関して様々な試みを行った。 1.ロバストニューラルネットワークの開発 市川らの入出力関数を利用して、段階的に非線形性を強くしていくニューラルネットワークの開発を行った。具体的には、最初、線形性の強い入出力関数を用いて、誤差の大きいデータの重みを小さくし、徐々に、非線形性を強くしていく。最終的には、通常用いられるシグモイド関数を用いて学習する。このロバスト法を、我々のグループの開発になるシフト検定法と組み合わせて、ニワトリの抗コクシジウム症作用をもつトリアジン誘導体の定量的構造活性相関に応用し、クロスヴァリデーション法により、予測性の改善が証明された。 2.学習回数と予測能力の関連に関する検討 階層型ニューラルネットワークの学習が過度に進んだ場合、過学習によって、予測能力の低下が起こることに既によく知られていたが、今回、医薬品分子設計分野に特有な構造をもつデータを選択し、予測能力と学習回数の相関性について検討した。その結果、予想とは異なり、非線形関係が期待されるデータに関しては、比較的過学習の起こる確率が小さいことが見いだされた。 この他、ニューラルネットワークの定量的構造活性相関への応用に際し、重要な記述子となる疎水性定数の推測法に関する研究に対し、若干の寄与を行った。 これらの研究の成果に関しては、1997年3月の日本化学会春期年会(東京・2BZ08)において、依頼講演として発表予定である。
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