テトラメチルピリジルポルフィリン(H_2TMPyP)は、カチオン性のメチルピリジル基を持つため水溶性を示し、また静電的引力によりDNA2重らせんのグルーブ(溝)に結合することができる。一方、疎水性を示すポルフィリン骨格は平面状であり、DNAの塩基間に挿入結合(インターカレーション)することもできる。平成8年度研究実績の概要で報告したように、H_2TMPyPはRNA2重らせんのグルーブに結合し、かつH_2TMPyP同志が核酸上で積み重なっている(スタッキング結合)こと、DNA-RNAハイブリッドに対してはインターカレーションすることがわかった。そこで9年度においては、この結合性が金属を挿入したポルフィリンにおいても保存されるかどうか検討した。主として銅を含むポルフィリン(CuTMPyP)について、可視吸収と円二色性スペクトルを測定し、その変化から結合反応を解析したところ、H_2TMPyPと比べてあまり大きな差異は観測されなかった。しかしながら、可視部の誘起円二色性スペクトルの測定により結合様式について調べたところ、CuTMPyPではインターカレーションよりもスタッキング結合が優先的に起こりやすいことがわかった。この変化は、銅の挿入によるポルフィリンの平面性の上昇によってうまく解釈できた。ポルフィリンの金属錯体は核酸を酸化的に切断する能力があるため、RNAに対する結合性を解明できれば有効な抗ウイルス剤や抗腫瘍剤を開発するのに極めて重要な知見を与えると考えられる。本研究の結果は、金属によるポルフィリンの結合性の制御が可能なことを示した点、極めて興味深い。
|