本研究の目的は、核酸の塩基配列を認識して特定部位で切断することができるポルフィリン錯体を合成し、切断活性及び核酸との相互作用機序を明らかにすることにある。まず、正の荷電基を4つ持つテトラメチルピリジルポルフィリン(TMPyP)を用い、これと核酸との相互作用について検討した。核酸としてDNA、RNA、及びDNA・RNAハイブリッド2重らせんを用いて調べた結果、TMPyPはRNAのらせん副溝上で自己会合すること、ハイブリッドには塩基対間にインターカレーションすること、DNAには塩基配列に応じて副溝への静電的結合(グルーブ結合)あるいはインターカレーションで結合することがわかった。これらの結合様式を制御するために3重らせん核酸を用いて検討したところ、自己会合やインターカレーションは3重鎖形成により阻害されるが、グルーブ結合は促進され、TMPyPの結合部位が2倍になることがわかった。また、鉄ポルフィリンやメタルフリーのポルフィリンによる核酸の切断機序について調べた。過酸化物による酸化的切断について詳細に検討し、鉄の配位子となるイミダゾールの添加によって活性が増大することがわかった。さらに、塩基配列の認識能を持たせるために周辺置換基を導入したポルフィリンを合成し、核酸との結合性について検討した。誘起CDスペクトルの測定により、DNAへのインターカレーターとなるアクリジンを導入したポルフィリンでは、ポルフィリン部分がDNA2重らせんの副溝に位置することが示唆された。アクリジンを持たないTMPyPでは自己会合し、明らかに異なった結合様式を示したことから、アクリジン部分のインターカレーションによって結合が起こっていると考えられた。
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