アンチセンスの細胞内導入キャリアーとして合成オリゴペプチドを検討した。キャリアー用ペプチドとして、塩基性アミノ酸を含む9個のアミノ酸からなるオリゴペプチドをペプチドシンセサイザーを用いて合成した。すなわち、リジン、ロイシン、システイン、トリプトファンからなる種々のペプチドを合成し、逆相カラムを装着した液体クロマトグラフィーにより精製した。この合成ペプチドによるDNAの細胞内導入キャリアーとしての適性をHeLaS3細胞を用い、CAT遺伝子を含むプラスミドDNAで検討した。 リジンやロイシンからなるペプチドでは、細胞内への導入は観測されなかったが、これにシステインを含むペプチドで遺伝子発現が観測された。このときのペプチドは、マススペクトルから2量体を形成しており、DTT処理によるペプチドS-S結合の切断により遺伝子発現能力は消失した。CD測定の結果、遺伝子導入能力のあるペプチドは、二本のペプチド鎖から成る構造をとっていると推察された。ゲル電気泳動の結果、DNAとペプチドは複合体を形成しており、複合体が細胞内に取り込まれることが、共焦点レーザー顕微鏡による観察より確認された。遺伝子発現は、HeLaS3細胞の他、CHO、L929、COS7、HepG2などの細胞でも観測された。ペプチドにトリプトファンを導入すると導入効率は向上した。以上の結果から、ジスルフィド結合をもつ塩基性アミノ酸及び疎水性アミノ酸からなるオリゴペプチドに、DNAを細胞内に導入する能力があることが判った。今後、ペプチドの二次構造とDNAとの相互作用について更に検討する必要があると思われる。
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