上記研究課題について、当初の研究計画にそって研究を行い、その成果が得られたので報告する。デュシャンヌ型筋ジストロフィー症は、ジストロフィンの遺伝子の欠損が発症原因であることが明らかにされているが、その欠損により筋ジストロフィーが発症するメカニズムは不明である.すでに、筆者らは、ジストロフィン遺伝子を欠損した疾患モデル動物(mdxマウス)を用いて、その発症機構に関する研究を行い、発症直前に、新規トリプシン様酵素(ジストリプシンと命名)が活性化されることを見い出した.本研究では、筋ジストロフィーの発症におけるジストリプシンの病態生理機能を知るために、まずその分子構造の解析に焦点を絞った。 1.発症前後のmdxマウスの後肢骨格筋から、ジストリプシンを完全精製し、酵素学的性質を解析したところ、メシル酸誘導体を初めとする低分子性トリプシン阻害剤で阻害されることが判明した。また、N末端アミノ酸配列を決定し、ジストリプシンはトロンビンを初めとするキモトリプシンファミリーに属するセリンプロテアーゼと低い相同性を示すことを明らかにした。 2.ジストリプシンのN末端部分配列をもとに、PCRによりDNAプローブを作成し、骨格筋cDNAライブラリーからのジストリプシン遺伝子のスクリーニングを試みた。その結果、cDNAライブラリーの作成には成功したが、スクリーニングを広範に行ったにも関わらず、目的とする配列を有するクローンの単離には至らなかった。今後は、ジストリプシンをさらに大量に精製し、その酵素消化断片の一次構造を決定し、その配列をもとに作成したPCR産物をプローブとして用いて、ジストリプシン遺伝子のクローニングを再度行いたいと計画している。
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