1.肥満細胞におけるFc ε RI刺激及びG蛋白質共役受容体刺激によるMAP kinase活性化の経時変化の相違 ムスカリンml受容体を発現させたラットの肥満細胞株RBL-2H3 (ml)細胞を抗原やカルバコールで刺激するとMAP kinaseは活性化される。両刺激によるMAP kinaseの活性化の経時変化を調べたところ、抗原刺激によるMAP kinaseの活性化は30分以上持続するのに対して、カルバコール刺激では10分以内に不活化することが明らかになった。 2. Diacylglycerol依存性の機構によるMAP kinase活性化制御 ホスホリパーゼCを阻害するneomycin及びホスホリパーゼD由来のdiacylglycerol産生を抑制するpropranololは、抗原刺激によるMAP kinaseの活性化には全く影響を与えなかったが、カルバコール刺激によるMAP kinaseの活性化を増強するとともに持続させた。したがって、G蛋白質共役受容体刺激の場合のMAP kinase活性化にはdiacylglycerolに依存したnegative feedback機構が存在することが明らかになった。 3. Calphostin CによるRaf 1の活性化抑制 Calphostin Cはdiacylglycerol拮抗型のプロテインキナーゼC阻害薬であるが、抗原及びカルバコール刺激によるMAP kinaseの活性化をともに強く抑制した。この作用機序として、calphostin CはRaf-1のtranslocationを抑制することによりその活性化を抑制していることが明らかになった。 以上の結果から、肥満細胞において膜リン脂質代謝は特にG蛋白質共役受容体刺激の場合のMAP kinaseの活性化を抑制していること、さらに、calphostin CはRaf-1の活性化を抑制し、その結果としてMAP kinaseの活性化を強く抑制することが明らかになった。したがって、種々の刺激によるMAP kinase活性化経路の集束点であるRaf-1の活性化を抑制する薬物は強力なMAP kinaseの活性化抑制作用を発現することが期待できる。
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