Enterococciの細胞内pHはH^+-ATPaseによるH^+の排出により調節されている。即ち、細胞内pHが低下すると細胞膜のH^+-ATPaseの量が増加し、H^+が細胞外に排出されることにより、細胞内pHは一定に保たれる。従って、細胞内pH調節にとって最も大切なことはH^+-ATPase量の調節であり、この調節は細胞内pHによるH^+-ATPaseの分子集合の制御で行われていることがわかった。EnterococciのH^+-ATPaseはF-typeのATPaseであり、細胞膜に存在するF_o部分とF_o部分に結合している膜表在性のF_1部分より構成されている。したがって、H^+-ATPaseの分子集合の調節機構として次の二つの機構が考えられる。(A)まずF_1とF_oのサブユニットが別々に集合して、F_1とF_oのcomplexができた後、F_1-complexとF_o-complexが結合してF_1F_o-complexができる。そして、F_1-complexとF_o-complexの結合がpHにより制御されている。(B)まず細胞膜にF_o-complexができ、このF_o-complexにF_1-complexが集合してF_1F_o-complexができる。そして、いずれかのcomplexが集合する段階でpHによる調節が行われる。このいずれが正しいかを調べた結果、(A)の可能性はないことがわかった。また、細胞質には分子集合しなかったF_1のサブユニットがcomplexとして多量に存在することがわかった。従って、F_o-complexの集合がpHにより制御されている可能性が高いと考えられる。即ち、pHが高くH^+-ATPaseを必要としないときはF_o-complexの集合が抑えられるが、F_1-complexはpHに関係なく作られるので、F_1-complexが余剰にでき、この余情のF_1-complexが細胞質に存在すると考えられる。一方、細胞質に存在するF_1-complexはATP分解活性がほとんどないことより、F_o-complexと集合できなかったF_1-complexは速やかにATP分解活性が失われ、細胞質でのATPの過剰の分解を防いでいることがわかった。今後は、F_o-complexの集合がどのようにしてpHにより制御されているかを明らかにしたい。
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