Enterococciの細胞内pHはH^+-ATPaseによるH^+の排出により調節されている。即ち、細胞内pHが低下すると細胞膜のH^+-ATPaseの量が増加し、H^+が細胞外に排出されることにより、細胞内pHは一定に保たれる。従って、細胞内pH調節にとって最も大切なことはH^+-ATPase量の調節であり、この調節は細胞内pHによるH^+-ATPaseの分子集合の制御で行われていることがわかっていた。本年度はこの調節機構を明らかにするために、変異株AS17株を用いた解析を行った。 EnterococciのH^+-ATPaseはF-typeのATPaseであり、細胞膜に存在するFo部分とFo部分に結合している膜表在性のF_1部分より構成されている。AS17株は細胞内が酸性化したとき、Fo部分は増加するが、F_1部分は増加しない変異株である。まず、AS17株の変異部位の同定を行ったところ、β subunitの1153番目の塩基が置換したことにより385番目のグリシンがトリプトファンに変化した変異株であることがわかった。AS17株の膜にあるFo部分と野生株のF_1部分を結合させたところ、正常に結合したことより、Fo部分は正常に分子集合していることがわかった。さらに、AS17株のF_1部分もAS17株のFo部分と正常に結合したことから、AS17株において、分子集合したF_1Fo-ATPaseは野生株と変わらず、分子集合課程が正常に行われないことがわかった。分子集合していないF_1部分のsubunitsの分解速度も野生株と同じであった。しかし、細胞質の存在するF_1subunitsは野生株よりも多く、このことからも、AS17株が分子集合の変異株であることがわかる。 このように、AS17株は分子集合の変異株であることがわかり、本酵素は分子集合の課程で調節されていることを示唆している。また、AS17株は今後の研究、特に分子集合課程の解析およびその調節機構の解析に、有用な変異株であることがわかった。
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