研究概要 |
慢性的心理的ストレスによる中枢性ストレス病態発現の機序を薬理学的分子生物学的に解明することを目的に、マウスの長期隔離飼育によって発現するペントバルビタール(PB)及びエタノール(ET)誘発睡眠の短縮機序を精査した。実験では長期間隔離飼育(隔離群)または群居飼育(群居群)したマウスを用い,催眠・麻酔作用薬を腹腔内投与(i.p.)後,正向反射が消失している時間を測定した。試験薬はその30分前に脳室内(i.c.v.)または60分前にi.p.投与した。またGABA_A受容体機能を制御する内因性物質候補としてジアゼパム結合阻害物質(DBI)に着目し、本ペプチドが関与する可能性を調べるとともに、マウス脳よりDBI遺伝子をクローニングして、慢性的心理的ストレスによる脳内発現の変化を検討した。 (1)隔離群のET睡眠はPB睡眠の場合と同様に群居群よりも有意に短縮していたが、抱水クロラール誘発の睡眠では両群に差がなかった。(2)ET睡眠の短縮はCRF拮抗薬及びベンゾジアゼピン(BZD)拮抗薬フルマゼニルにより回復したことから、隔離飼育ストレスによるET睡眠の短縮にも中枢CRF及びGABA_A系、特に内因性BZD受容体結合物質が関与すると考えられた。(3)ヨヒンビンやメトキサミン(i.c.v.)は群居群のPB睡眠を短縮し,その効果はフルマゼニルで抑制された。従ってノルアドレナリン神経系の賦活が内因性BZD受容体結合物質の活性を増強する可能性がある。(4)DBIは隔離群のPB睡眠には影響せずに群居群の睡眠のみを短縮した。群居群におけるDBIの効果はフルマゼニルにより拮抗された。(5)視床下部においてDBI遺伝子の高密度な発現が認められたが、隔離群ではその発現量が有意に低下していた。以上の成績は本ストレスによるGABA_A受容体機能抑制性のDBIの発現変化がPB睡眠短縮に関与する可能性を強く示唆する。
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