研究概要 |
生体の痛覚抑制機構に対する調節機構である″アンチオチピエ-ト″の役割は殆ど不明である。アンチオピエ-ト候補とされるTyr-MIF-1(Tyr-Pro-Leu-Gly amide)と,その誘導体YPIG(Tyr-Pro-Ile-Gly amide)について,抗鎮痛作用,および他の生体適応機構と考えられる不安あるいは学習記憶に対する影響を検討した。 1.Tyr-MIF-1の腹腔内および脊髄腔内投与は,オピオイドμ受容体作動薬モルヒネおよびラムダκ受容体作動薬U-50,488Hの抗侵害作用を有意に減弱したが,脳室内投与では影響が見られなかった。YPIGの脳室内投与はモルヒネ鎮痛効果を増強したが,U-50,488Hの効果には影響しなかった。 2.Tyr-MIF-1はナロキソン拮抗性の足ショック(FS)-および社会心理的(PSY)-ストレス鎮痛(SLA)だけでなく,オピオイド系を介さない強制水泳(SW)-SIAも抑制した。YPIGの腹腔内投与はFS-およびPSY-SLAを抑制したが,脳室内投与では全てのSLAを増強した。 3.Tyr-MIF-1,YPIGともにFSおよびPSYストレスのモルヒネ耐性形成抑制効果を消失させた。 4.高架式十字迷路法によって,Tyr-MIF-1に抗不安作用が示唆された。 5.Tyr-MIF-1の学習記憶過程に対する効果は認められなかった。 6.レセプターアッセイで,μ受容体にはYPIGのほうが選択性が高かった。 以上,Tyr-MIF-1は痛覚抑制系や不安などを含む,生体適応機構を調節している可能性が示唆された。さらに,Tyr-MIF-1とYPIGの相違から,Tyr-MIF-1のアンチオピエ-ト作用発現に特異的な立体構造が必須であることが推察された。
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