研究概要 |
ラット肝臓のミクロソーム画分に存在する薬物代謝酵素カルボニルレダクターゼは,種々の生理的因子によって調節されることを,これまでに明かにしてきた.またその研究過程において,本酵素活性を欠損するラットを偶然にも発見した.そこで本酵素における遺伝子欠損の機構を明かにするために,まず本酵素の欠損症ラットと正常ラットを交配させ遺伝様式を決定した.本酵素活性は,遺伝の理論比に従って雄特異的に限性遺伝することが判明した.限性遺伝には,遺伝子が性染色体に存在する場合と,遺伝子が常染色体に存在し,その遺伝子の発現が性特異的な因子によって制御される場合の2つのタイプに分けられるが,本酵素の活性発現はテストステロンに依存しており,後者のタイプに属することが明らかになった. 次に正常ラットの肝臓から目的とするカルボニルレダクターゼの精製を試みた.しかし本酵素の可溶化には成功したものの,各種クロマトグラフィーに付すと著しい失活が認められるため,均一な酵素の精製には至らなかった.そこで本酵素が生体内でどのような役割を有するか,また生体内に本酵素と類似した酵素が存在しないか検討した.本酵素はステロイドホルモンであるプロゲステロンによって強く阻害され,さらに基質に対して拮抗的に阻害されることが分かった.これらの結果から,本酵素は20β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(20β-HSD),もしくはその分子種である可能性が示唆された.また興味深いことに,欠損症ラットと正常ラットでは,本酵素の幾つかのアミノ酸残基が異なることを示唆するデータが得られた. 以上の成果をもとに,次年度では本酵素蛋白質をコードする遺伝子のクローニングを試み,さらに遺伝子欠損の機構を解析することを目的とする.
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