ストレス蛋白質は細胞内蛋白質の発現時から輸送、機能発現、分解に至る全過程においてその補助を担う重要な役割が明らかとなり、ストレス蛋白質と生体各組織における蛋白質の機能発現、恒常性維持ならびに疾病との関与について大きな関心が集まっている。本研究は、加齢に伴う脳の機能低下にどのようにストレス蛋白質が関与しているかを明らかにすることを目的として行われた。 5週齢から96週齢までのラットを用い、加齢に伴う脳内のストレス蛋白質レベルの変動について調べた。本年度はストレス蛋白質の中で、量的に最も多く、機能についての研究が進んでいる70kDaのストレス蛋白質、hsp 70、について検討した。その結果、脳内のストレス蛋白質の発現レベルは加齢に伴い徐々に増加することが明らかとなった。これまで肝臓等においては、加齢に伴うストレス蛋白質の発現レベルの変動は報告されていない。この違いは成熟神経細胞が寿命の最も長い細胞であることに起因しているものと考えられる。脳において加齢に伴う細胞内の変性蛋白質の増加は、ストレス蛋白質の発現レベルが増加することによりある程度防がれ、生体の恒常性を維持するよう機能しているものと考えられる。また、老齢ラットでは脳内の部位によってhsp 70の発現レベルが異なることも見いだされた。これらの結果を基に来年度は、ストレス蛋白質の発現と脳内の酵素活性との変化との関連について更に検討し、ストレス蛋白質の発現調節における老化防御への可能性を探る。
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