研究概要 |
平成8年度ではラット虹彩筋に存在するムスカリン受容体サブタイプのmRNA発現量をRT-PCR法を用いて検討した。摘出ラット虹彩部分から総RNAを抽出した後、逆転写反応によりDNAを得て、これを基にPCRを行った。ラット脳のムスカリン受容体遺伝子m1からm5までのプライマーを作成し、グリセルアルデヒド3燐酸デヒドロゲナーゼm-RNAを内部標準としてm-RNA発現量を比較定量した。その結果、虹彩ではm2, m3, m4がほぼ同程度に発現しており、m1とm5は少なかった。心臓や膀胱と胃ではm2とm3が主で、m4と殆ど発現しておらず、脳にはm1、m4やm5も存在する。m4の発現が多いことは虹彩においてかなり特徴的と考えられるが、どのような役割を果たしているか現在検討中である。また虹彩m4のクローニグも試みている。 虹彩散瞳筋は自発性の筋緊張を持ち、ムスカリン受容体刺激により弛緩する。そこで静止状態での細胞内Ca濃度が通常の細胞より高いかを蛍光色素fura-PE3と画像解析装置Argus50を用いて検討した。その結果、細胞内Ca濃度は散瞳筋において自発性緊張を持たない虹彩縮瞳筋に比べ高いこと、ムスカリン受容体刺激により散瞳・縮瞳筋において細胞内Ca濃度はそれぞれ減少・増大し、それは弛緩・収縮に対応することが明らかとなった。散瞳筋のスキンド標本では、pCa6.0で正常標本の自発張力に対応する張力を持ったが、この時、ムスカリン受容体刺激により弛緩は生じなかった。またスキンド標本において収縮のpCa依存性は散瞳筋・縮瞳筋において殆ど差が無いことが明らかとなった。虹彩散瞳筋のムスカリン性弛緩は収縮蛋白系のCa感受性の低下よりもむしろ主に細胞内Ca濃度の低下により生じると推測される。
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