ヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)の活性調節機構を明らかにするために、翻訳後修飾、および遺伝子発現の調節の両面から検討を行った。まず74kDa HDCをバキュロウイルス-昆虫細胞系に発現させたものを用いて、HDC酵素活性、及び分子量変化を解析したところ、74kDa分子種は比活性は低いものの活性体であることが明かとなり、また両分子種の細胞内における分布が異なるという知見が得られた。そこでラット好塩基球細胞株RBL-2H3を用いて両分子種の細胞内局在性を検討したところ、74kDa分子種は非常に代謝回転の速いタンパクであるのに対して、53kDa分子種は比較的安定なタンパクであることが明かとなった。そして74kDa分子種は細胞質で翻訳された後小胞体へ移行してプロセシングを受け53kDa分子種となることが明かとなった。さらに74kDa分子種がユビキチン-プロテアソーム経路で分解されていることを示唆する知見が得られた。次にHDCの産生調節を明らかにするために、ヒトHDCの解析を行った。その結果、ヒトHDC遺伝子5'上流域において複合的な因子による複雑な制御が行われていることが明らかになった。また、DNA結合蛋白質c-Myb、及びAP-1がコンセンサス配列に結合し、HDC遺伝子の転写を制御していることが示唆された。さらに、転写開始点より上流850bp周辺の位置にこれまで知られていなかった新規の正及び負の制御配列が存在し、機能蛋白質が結合していることが明らかになった。この負の制御因子はヒスタミンを合成しない細胞においてHDCの発現を阻害しており、ヒスタミン産生細胞では隣接する正の制御配列に結合する因子により負の因子の働きが解除され、HDCが発現していることが示唆された。
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