筆者らは、フォスファターゼ阻害剤のオカダ酸(OA)がオプソニン化ザイモザンによる白血球(好中球様に誘導したHL-60細胞)の活性酸素(O_2-)産生に対して二相性の作用をもつことを見いだしていた。即ち、1μMOAはそれを顕著に促進する一方、5μMOAは完全に阻害した。また、その条件でのリン酸化蛋白の解析から、コフィリンと呼ばれるアクチン・PIP2結合蛋白が刺激に対する早い脱リン酸化反応を介して、白血球の活性化に重要な役割を果たすことを示唆して報告した。そこで、今回種々の濃度のオカダ酸を用いて、コフィリンの細胞内分布変化を検討した。方法としては、薬剤処理した細胞をホルムアルデヒドで固定し、スライドガラスに接着させた後、メタノール処理し、間接蛍光抗体法で染色したコフィリンを、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡で観察した。その結果、(1)コフィリンは、刺激しない休止状態の細胞では、細胞質および核領域全体に均一に分布しているが、オプソニン化ザイモザンで刺激すると、貧食胞を形成しつつある変形した細胞膜の領域にトランスロケ-ト(移行)し集積した。(2)1μMOAで前処理した細胞でも、オプソニン化ザイモザン刺激によるコフィリンの膜への移行は観察された。(3)5μMOAで前処理した場合、刺激によるコフィリンの膜への移行は強く阻害され、細胞内に均一に分布したままであった。(4)一方、OAのみでは、いずれの濃度でも活性酸素産生は見られず、コフィリンの分布変化も生じなかった。以上の結果から、白血球が活性化されるには、コフィリンが刺激に応じて細胞膜領域へ移行できる状態にあることが必要であると思われた。また一方、フォスファターゼ阻害剤のOAは、1μMでは刺激によるコフィリンの脱リン酸化を阻害しないが、5μMでは強く阻害する結果も得ていた。従って、コフィリンの脱リン酸化が膜への移行(トランスロケーション)メカニズムに関与している可能性が考えられる。
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