筆者は、昨年度フォスファターゼ阻害剤のオカダ酸がオプソニン化ザイモザン(OZ)による食細胞(好中球様に誘導したHL-60細胞)の活性化に対して示す二相性の効果を解析し、コフィリンの脱リン酸化と膜への移行(トランスロケーション)が白血球の活性化に極めて密接関連することを示唆して報告した。一方、リン酸化されていないコフィリンは、in vitroで、重合したアクチン(F-アクチン)を脱重合するが、その反応はpH依存性が強いことが知られている。すなわち、pH7.3をcritical pHとして、それ以上では脱重合活性は強いが、pH7.3以下では、脱重合活性は急激に低下する。そこで、今年度は食細胞活性化時の細胞内pHの変化とF-アクチンおよびコフィリンの動態を解析し、細胞内におけるコフィリンの機能発現を検討した。食細胞の活性化と細胞内pHの変化は、個々の細胞ごとに測定する方が望ましいので、今回はU937細胞を付着性のマクロファージ様に誘導して使用し、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡で観察した。pH指示薬としてはSNARF calceinを使用し、活性化剤としては貪食が顕微鏡的に観察できるOZを使用した。分化誘導したU937細胞において、OZ刺激すると3分後くらいから細胞内pHは低下し6.8程度になった。一方、F-アクチンの変動をFITC-ファロイジンで定量すると、刺激後上昇した。すなわち、コフィリンのF-アクチン脱重合活性を抑えるpHの低下とF-アクチンの増加は一致していた。さらに、コフィリンとF-アクチンの細胞内分布変化を詳細に観察すると、静止状態の細胞ではF-アクチンは細胞膜領域にあり、刺激に伴いその量が増えるが、貪食胞形成後もその分布はほとんど変わらなかった。一方、コフィリンは静止状態では細胞質全体に分散していたが、活性化に伴い貪食胞を形成しつつある細胞膜領域に移行した後、刺激後15分では再び細胞質全体に分散していた。このことから、コフィリンは細胞膜領域のF-アクチン形成に深く関与し、その機能を果たした後は再び細胞質に分散するものと考えられた。
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