研究概要 |
動物細胞のグルコース輸送系は、がんや糖尿病等のヒト疾患とも密接に関与する重要な細胞膜機能の1つであり、細胞膜に存在する分子量約50kDの特異的輸送タンパク質により調節されている。我々は、動物細胞の増殖、膜情報伝達の調節機構を、分子および遺伝子レベルで、細胞機能の面より解析することを目的として、増殖因子による糖輸送調節機構について、グルコース輸送タンパク質(GLUT1)に着目した研究を行っている。その結果、動物細胞は外部刺激に応じて、GLUT1の遺伝子発現(転写)ならびに糖鎖修飾を介して糖輸送活性を巧妙に調節していることを明らかにした(1991,1993,1994)。更に、その分子調節機構やヒトがん病態との関連について解析を行い、ヒトがん細胞株におけるGLUT1の糖鎖構造異常と、それに伴うグルコース親和性の増加を報告した(1995)。またこれら糖輸送活性の変化は、造腫瘍性の異なるヒト融合細胞系を用いた解析の結果、11番染色体に存在する新規癌抑制遺伝子の機能と密接な関連のあることを明らかにした。そこで、本年度は糖輸送タンパク質の糖鎖変化や機能調節とヒトがん病態に関する分子調節機構の解析を更に検討した。11番染色体の癌抑制遺伝子により造腫瘍性の消失したヒト融合細胞を、ガンマ線照射することにより得られた腫瘍性細胞株では、いずれもGLUT1の糖鎖修飾とグルコース親和性の増加が認められたのに対し、非腫瘍性のガンマ線照射融合細胞では、このような変化は認められなかった。これらガンマ線照射による糖輸送機能変化に加え、我々が最近見い出した細胞膜タンパク質カベオリンの発現も、腫瘍性細胞株では顕著に低下していた。以上の結果は、これら細胞膜変化が癌抑制遺伝子により制御されていることを更に示唆している。現在、GLUT1の糖鎖修飾機構や癌抑制遺伝子機能について検討中である。
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