申請者らは、悪性度が高いがん細胞が非常に高いヘキソキナーゼ活性を示すことに注目し、がん細胞に特徴的なエネルギー代謝系のcharacterizationを進めている.その結果現在までに、がん細胞では、正常細胞でほとんど発現していないII型と呼ばれるヘキソキナーゼアイソザイムが多量に発現し、活発な増殖分裂のためのエネルギーを供給していることを見いだした.そこで本研究では、悪性度の高いがん細胞でしばしば観察される、多量に発現したヘキソキナーゼのミトコンドリアへの結合の生理的意味と分子機構を明らかにすることによって、がん細胞に特徴的なエネルギー代謝系をより一層明解にすることを目的とした. がん細胞のミトコンドリアでのヘキソキナーゼの結合部位は、外膜上に存在するポーリンであると考えられている.しかし、ポーリンにはいくつかのアイソフォームがある可能性が見いだされており、がん細胞のミトコンドリアにどのアイソフォームが多量に発現し、がん細胞ミトコンドリアへのヘキソキナーゼの結合を促進するようになっているかは全く明らかにされていない.そこでこの問題解明のために、悪性度の高いがん細胞株AH130のmRNAからcDNAライブラリーを調製し、がん細胞に多量に発現したポーリンアイソフォームの同定を進めている.現在までにいくつかのクローンを解析し、これらがいずれもVDAC1と呼ばれるアイソフォームをコードしていることを見いだしている(篠原、寺田、日本薬学会第117年会発表予定).今後、他のポーリンアイソフォームの転写レベルと比較するなどして、がん細胞のミトコンドリアにヘキソキナーゼ結合能を付与するポーリンを同定し、そのcharacterizationを行う予定である.
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