眼粘膜に投与された薬物は、角膜、結膜などの眼周辺組織に吸収されて、局所や全身に移行し薬理作用を発揮する。したがって、眼粘膜に投与されたインスリン等のペプチド医薬品の眼粘膜透過性は、吸収速度や吸収量を抑制するための極めて重要な要因となる。一般に、水溶性で分子量の大きいペプチド医薬品の眼粘膜透過性は、低いことが知られている。本研究では、ペプチド医薬品のモデルとして、分子量が350〜9400の6種の水溶性薬物を用い、in vitroで眼粘膜透過性の検討を行い、以下の知見を得た。 1 水溶性薬物は、角膜透過性が極めて低く、眼内への移行は少いことが示された。角膜の上皮細胞層を取り除くことにより、水溶性薬物の角膜透過性が顕著に増大したことから、上皮細胞層が、主な透過障壁であることが示された。また、角膜に比べて結膜は、水溶性薬物に対して高い膜透過性を示した。 2 拡散モデルに基づいた解析を行った結果、薬物透過定数の分子量依存性は、結膜では拡散パラメータに起因し、角膜では、拡散パラメータと分配パラメータの両方に起因することが明らかとなった。 3 吸収促進剤を併用することにより、水溶性薬物の眼粘膜透過性を顕著に改善できることが認められた。 これらの結果から、インスリンの眼粘膜投与により、血糖低下作用を発現できる可能性が示唆された。皮下注射に代わるインスリンの新しい投与方法が確立されれば、糖尿病患者の生涯にわたる注射に伴う身体的、精神的苦痛がなくなり、Quality of Lifeの向上に貢献できるものと信じている。
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