研究概要 |
本研究では、内因性組織修復因子の活性化を介して難治性消化性潰瘍の治癒促進を企図する新規潰瘍治療薬の開発を目指して、各種硫酸化環状オリゴ糖シクロデキストリンおよびその難水溶性アルミニウム塩を調製し、それら誘導体の潰瘍治癒促進作用を比較検討した。以下に、本研究で得られた知見を要約する。 1)各種硫酸シクロデキストリンと代表的な内因性組織修復因子である塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の溶液中における相互作用を各種スペクトル法、ペプチドマッピング法および微小熱量測定などにより検討した結果、硫酸化シクロデキストリンはbFGF分子表面のヘパリン結合部位近傍と強く相互作用し、bFGFの酵素安定性を顕著に向上することが明らかとなった。 2)bFGFと硫酸化シクロデキストリンの難水溶性アルミニウム塩の吸着体は水中で長時間安定に存在したが、等張リン酸緩衝液(pH7.4,37℃)中では吸着体からbFGFが徐々に遊離した。その際、脱着したbFGFは未処理bFGFと同等の細胞増殖活性を保持していた。 3)ラットを用いた酢酸胃潰瘍モデルおよびシステアミン十二指腸潰瘍モデルを作成し、上記硫酸化シクロデキストリンの難水溶性アルミニウム塩を連日投与し、潰瘍の治癒過程を組織学的に観察した。今回用いたシクロデキストリン誘導体の中で、硫酸エステル化体は顕著な治癒促進効果を示した。それら誘導体の治癒促進効果は、シクロデキストリンの空洞径には依存せず、硫酸基の平均置換度の増加に伴い増大した。 今回得られた知見は、内因性組織修復因子の安定化を介して潰瘍の治癒を促進する新しいタイプの抗潰瘍薬を開発する上で有用な基礎資料になるものと考えられる。
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