グラム陰性細菌表層のリポ多糖(LPS)の糖脂質部分であるリピドAは、内毒素活性の本体として、発熱作用、致死毒性等のほかに、抗腫瘍作用、免疫賦活作用等の少量で多彩な薬理作用を示すことから、生体応答調節物質(BRM)として医療への応用が注目されている。これまでにリピドA構成最小単位糖であるD-グルコサミン-4ーリン酸誘導体を基本骨格とする各種の誘導体の合成研究を展開してきた。その結果、リピドAの還元糖側のD-グルコサミンを、脂質を含むL-セリン誘導体で置き換えたD-グルコサミン-4ーリン酸誘導体が低毒性かつ、天然のリピドAに匹敵する強い免疫賦活作用を持つことを見いだした。そこで本研究の初年度として、先の研究成果を踏まえて、合成ワクチンのための効果的な合成免疫アジュバント増強活性部位の創製を目指してリピドA誘導体の合成を展開した。その結果、リピドAの還元糖部分をアミノ酸(L-セリン、L-スレオニン、L-ホモセリン)にミミックしたN-アシルアミノ糖の中に強力な免疫活性(L-セリン>L-スレオニン>L-ホモセリン)をもつ化合物を見いだすことが出来た。次に最も活性が強かった化合物をリ-ド化合物として、それに抗原との結合のためのスペーサー部位としてβ-アラニンを導入した化合物が、先の母骨格よりも強いマイトジェン活性を有することを見いだした。また腫瘍特異的抗体の産生のために癌関連糖鎖抗原部位としてTn及びSialyl-Tnの有効な合成法を開発した。次年度はこれらの研究成果をもとに、合成免疫アジュバント増強活性部位としてのリピドA誘導体と、癌関連糖鎖抗原部位としてのTn及びSialyl-Tn抗原との縮合物である合成癌ワクチンの合成研究を行う。
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