研究概要 |
我々の研究グループでは、親水性のポリエチレングリコールとアスパラギン酸からなるブロック共重合体に抗ガン剤であるアドリアマイシンを結合させると水中で安定な会合体(高分子ミセル)を形成することを見いだしている。本研究では、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)と疎水性の生分解性連鎖を併せ持つブロック共重合体を合成し、温度応答性高分子ミセルへの展開を検討した。PIPAAmは相転移温度以下では親水性を示すことから、低温側で親水‐疎水型のミセルを形成し、高温にすると分子全体が疎水性になり凝集・不溶化すると考えられた。すなわち、ある特定部位を局所的に加温すれば、安定に存在していたこの高分子ミセルが凝集し、集積する。このようなシステムを用いれば、外部からの温度変化という信号に応答した薬物ターゲティングが実現すると期待される。 水酸基を有するチオール化合物を用いてテロメリゼーション法により片末端に水酸基を有するPIPAAmを合成した。さらにPIPAAmの片末端の水酸基を利用して、D,L-ラクチドの開環重合を行い、PIPAAm-ポリ乳酸(PDLLA)のブロック共重合体を合成した。 分画操作によって分子量分布が比較的小さい高分子量側成分のPIPAAm-OHを用いて得られたPIPAAm-PDLLAブロックコポリマーのDLS測定を行った。5℃では測定が不可能であったが、温度上昇に伴い会合体を形成することが確認された。20℃以上で粒径の測定が可能となり粒径が若干低下する傾向が観察された。その後、35℃において急激に粒径の低下が観察され、約65nmの粒径の会合体が得られた。このときの多分散度はほぼ0.1程度であったことからほぼ球形の会合体の生成が示唆された。このような挙動は相対的に低分子量のPIPAAm-OHから得られたブロックコポリマーにおいても観察された。さらに温度を上昇させると会合体は凝集し始め、沈殿を生じた。 すなわち、比較的分子量分布の狭いPIPAAm-PDLLAブロックコポリマーから得られた会合体は、生体温度の近いところでほぼ球形に近い高分子ミセルを形成し、そのサイズも65nmと小さいものであった。この高分子ミセルは温度上昇に伴い会合体の凝集・沈殿を生起することが明らかとなった。
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