研究概要 |
アンスラサイクリン系やビンカアルカロイド抗癌剤などの構造や作用機序の異なる抗癌剤を細胞内から排泄させるP-糖タンパク質の過剰発現によってもたらされる抗癌剤多剤耐性は癌の化学療法を困難とする重要な原因と一つとして知られている。このP-糖タンパク質の過剰発現による耐性に対する対策の一つとしてP-糖タンパク質の排泄機能を阻止する方法が考えられる。これまでに我々は両端のNにアリールを有するエチレンジアミン、エチレンジカルボキサミド、エチレンジスルホンアミドを合成し、P-糖タンパク質を過剰発現している多剤耐性マウス白血病P388/ADR細胞において、ビンブラスチンの細胞内蓄積増加作用とビンブラスチンの細胞増殖抑制作用に対する増強効果を比較検討することによって、ジスルホンアミドが概して強い作用を発揮することを見出した。また、1,5位にクロルベンゼンを有し、2,4位にオキソあるいはチオキソ,メチルチオキソを導入した1,3,5-トリアザシクロヘプタンにも同様の作用を見出した。そこで今回はエチレンジスルホンアミドを基本骨格とし,両端にクロルベンゼン、ナフタリン、キノリン、ピリジンを有する化合物および1,5位に同様な側鎖を有する1,3,5-トリアザシクロヘプタンの3位にエチルあるいはベンジルを有する一連の化合物を合成しP388/ADR細胞におけるビンブラスチンの細胞内蓄積と細胞増殖抑制作用に対する増強効果を比較検討した。その結果、エチレンジスルホンアミドあるいはトリアザシクロヘプタンのいずれの場合にもキノリンやピリジンを側鎖に有する化合物の効果は弱く、クロルベンゼンあるいはナフタリンを有するものの作用が強かった。また、エチレンジスルホンアミドとトリアザシクロヘプタンの比較では後者の作用が一般的に強い傾向があったが、後者の3位置に導入したエチルとベンジルについてはいずれの化合物群でもそれぞれ同程度の作用の強さを示した。
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