アドバンス・ディレクティブ(事前指示)とは、患者あるいは健常人が、将来判断能力を失った際に、自らに行われる医療行為に対する意向を前もって示すことである。今後の日本の医療現場における患者の意思表示の具体的なあり方を模索するために、今年度は先ず、文献調査等による日本・ドイツ・アメリカの国際比較研究を行い、事前指示のあり方の各国における普遍性と多様性について検討をした(研究発表論文参照)。 次に日本において、人間ドック男性受診者(一般健常人)を対象に「治療に関する事前の意思表示」についての知識、経験、意識を問う自記式アンケート調査を行った。有効回答は210部で、81.9%の者が何らかの形で事前の意思表示を示しておきたいと回答した。意向を残しておきたい内容は、終末期の治療方針、病名の告知、臓器提供の意思などについてが多かった。また、意思表示の方法は、だいたいの方針を口頭で家族や知人に伝えておき、代理の決定者は家族または親戚とし、法的整備の必要性はあまり強く意識しない、という回答が多く認められた。現在日本において実際にリビングウイルを書いている人が少ないという現象には、書面による契約関係が一般的でないという日本の社会的背景、死を語ることの心理的抵抗、「予測不可能なことについては前もって意思表示できない」という事前指示の持つ理論的な限界、などの要因が関与していることが示唆された。 次年度は、実際の臨床現場での事前指示の必要性について、医療従事者(医師、看護婦等)の意識調査を行う。さらに、各疾患別患者の事前指示のあり方の検討、即ち、各疾患患者(ホスピス入院中の末期患者や筋萎縮性側索硬化症等の難病患者)に対する調査を行い、今後の日本における患者の意思表示のあり方について最終的に報告書をまとめたい。
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