アドバンス・ディレクティブ(事前指示)とは、患者あるいは健常人が、将来判断能力を失った際に、自らに行われる医療行為に対する意向を前もって示すことである。本研究では今後の日本の医療現場における患者の意志表示の具体的なあり方を模索した。先ず文献調査等により事前指示のあり方の各国における普遍性と多様性について検討をした。次に、人間ドック受診者(一般健常人)及び大学病院に勤務する医師を対象に「治療に関する事前意志表示」についての知識、経験、意識を問う自記式質問紙調査を行った。健常人の調査の有効回答は210部で、8割以上の者が何らかの形で事前の意志表示を示しておきたいと回答した。意思表示の方法は、だいたいの方針を口頭で家族や知人に伝えておき、代理の決定者は家族または親戚とし、法的整備の必要性はあまり強く意識しない、という回答が多く認められた。医師の調査の有効回答は72部で、8割以上の医師が患者に何らかの形で事前の意志表示を示しておいてもらいたいと回答した。意思表示の方法については書面によるものを望むものが9割弱で、一般健常人の結果と対照的であった。 さらに各疾患別の事前指示のあり方を検討するために、ホスピス・緩和ケアを例に取り、ホスピス入院中のがん末期患者34名への構造化面接及びホスピス・緩和医療に携わっている医師・看護婦計38名に自記式質問紙調査を行い、米・独での調査と比較した。医療従事者への調査では、ホスピス・緩和ケアの場面では事前の意思表示は必要なものと捉えられており、国際比較でも大きな意識の差はなかった。「事前指示」のあり方は各文化である程度の差があるものの、第一義的には患者の意向の尊重、第二義的には、医療者側の行為の保護(法的な面を含む)や家族や医療者側が判断する際の心理的負担の軽減、になるのであろうと考察された。
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