平成8年度は、産業医科大学・血友病包括外来を受診した患者および非血友病患者のhiv感染者およびエイズ患者の15名に対し職場および家庭環境を問診による詳細な調査を実施した。 血友病患者は事業主にその診断名を知らせていないため、関節障害があるにもかかわらず健常者と同様の仕事をしており、事業主は職場の改善等の対策ができていない。HIVの問題以後、従来にもまして血友病患者は病名を隠して就職する傾向にあると思われる。また、中小企業の多くは産業医、保健婦等がいないため、職場での不都合は患者本人が解決しなければならない。 就職を控えた血友病患者の多くは、就職先として公務員または中小企業を考えており、全員大企業は希望していない。従来、一部の患者および両親にあきらめや甘えの構造があり、勉学や就職に影響していたと考えられる。最近は、第8因子製剤の家庭注射が普及したことにより関節障害等が最小限に予防できることから、患者や家族の血友病に対する考え方が変わり、大学への進学や就職先等が改善されると期待できる。 非血友病患者は、すべての事業主また一部は家族にも秘密にしているため、2名を除いて全員エイズを発症して当院を受診した。全員HIVキャリアの時期に発症予防の投薬を受けていない。エイズ発症後自分から辞職し、自営業を手伝うか、無職となり生活保護または医療保護を受けるなど問題が多い。事業主および従業員のHIVに対する偏見をなくする方策を職場に広め、早急に仕事をしながら発症予防薬を内服できる環境を整備しなければならない。現在、これらの結果を踏まえ事業場の産業医、保健婦および衛生管理者等に対し、HIV感染者およびエイズ患者に対する具体的対応策についてアンケートを中心した検討を実施している。
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