グリシン開裂酵素系(GCS)の一つの構成酵素であるグリシン脱炭酸酵素(GLDC)をコードするマウスの遺伝子断片をクローン化し、染色体座位をfluorescence in situ hybridization(FISH)法によりマウス第19番染色体C領域に決定した。更に、この遺伝子断片の構造解析により同領域の新しいCAリピート・マーカーを同定出来た。また、embryonic stem(ES)細胞の相同組換えのためにこの遺伝子断片のうち10Kbpを用いてそのなかに含まれるエクソン部にネオマイシン耐性遺伝子を挿入し、GLDC遺伝子機能を喪失させるターゲティング・ベクターを構築した。これをES細胞に導入しネオマイシン耐性細胞を単離した。次に、ヒトGLDC cDNAをCAGプロモーターの下流に結合したDNA断片をマウス受精卵に導入し、GLDCを過剰発現するトランスジェニック・マウス(Tg)を製作した。このマウスでは脳、心、腎などの臓器で外来遺伝子の強い発現が認められ、またそれに一致してGLDC活性の上昇を観察した。脳内の発現とGCSの全体活性を詳細に調べると大脳皮質、海馬、脊髄でGCS活性が上昇し、それに呼応してその部位のグリシン含量の低下を認めたことからマウス脳においてもGCSはグリシン代謝の主要な役割を演じていると考えられた。特に脊髄では、野生型のマウスではGCS活性を欠いておりTgマウスで活性を獲得していることから、野生型マウスの脊髄におけるグリシン含有量の高値はGLDC遺伝子発現の欠如によると推察された。
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