HTLV-Iウイルスと無関係の一般のT細胞白血病においてしばしば認められる、染色体14q11領域に生じる染色体転座のほとんどは、この領域にマップされるT細胞受容体α/δ遺伝子座において生じる。これらの染色体転座はT細胞受容体遺伝子座の中でも特に、Dδ-Jδ-Jα領域に於いてV(D)J結合の誤りとして、引き起こされる。これに対して、西南日本に多い成人T細胞白血病(ATL)患者では、多くの症例において第14番染色体q11における異常が認められるにも関わらず、一例もこのDδ-Jδ-Jα領域における染色体転座が証明されていない。ATLにおける染色体転座は、Vα領域に生じることが強く示唆されるが、現在までのところATLにおける染色体転座が本当にVαで起きているという直接的証拠は無かった。それは、Vα領域が1Mbにも達する広大な領域であるため、詳細な解析を行うためのプローブが従来存在しなかったためである。われわれは、Vα領域を含む酵母人工染色体(YAC)クローンを単離し、このYACクローンをプローブとして、染色体14q11領域に異常が認められるATL患者由来の染色体標本に対して蛍光in situハイブリダイゼイション法を適用し、染色体切断地点の解析を行った。その結果複数のATLの症例においてVα領域が染色体転座に関わっているという予備的知見を得ることができた。さらにこの染色体転座の切断点をより詳細に解析するため、Vα領域に由来する平均インサートサイズ120kbのBACクローンを約30種類単離し、この領域の構造解析を進めている。
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