ヒト14番染色体q11.2領域に存在するヒトT細胞レセプター(TCR)α/δ鎖遺伝子座は、TCRα遺伝子座の中にTCRδ遺伝子座が内包されるという特殊な構造を持ち、T細胞の分化の過程でVα-JαあるいはVδ-Dδ-Jδ遺伝子再配列を行い、その特異性と多様性を獲得する。T細胞白血病においてTCRα/δ遺伝子座はしばしば遺伝子再構成の誤りによる染色体転座を生じ、プロト癌遺伝子の活性化を引き起こす。T細胞白血病において染色体転座はTCRα/δ遺伝子座の中でも特に、Dδ-Jδ-Jδ領域に限局して報告されている。成人T細胞白血病(ATL)患者では14番染色体q11における多くの染色体異常が認められるにも関わらず、これらの領域における染色体転座は現在までのところ証明されていなかった。われわれは、成熟したT細胞の腫瘍であるATLでは染色体転座が可変領域を中心に生じているためではないかと推定し、この領域を中心として全TCRα/δ鎖遺伝子座のゲノム解析を行った。この領域を含むYACクローンから合計158種類のコスミドクローンを単離し、さらに独立して13種類のBACクローンを単離し整列化を行った。その結果、全ての可変領域を含む約1MBの領域にわたるTCRα/δ鎖遺伝子座の完全な整列化を完成した。TCRα/δ鎖遺伝子座全体で、53種類のVαセグメントと3種類のVδセグメントの存在が確認された。またδRec遺伝子をVα19.1とVδ2.1の間に同定し、δRecとψJαとの遺伝子再配列によってVδ2.1-Dδ-Jδ-Cδ-Vδ3.1領域の欠失のもたらされることが明らかとなった。 この領域由来するBACクローンをプローブとして染色体逆位inv14(q11.2q32)を持つATLの1症例において、蛍光in situハイブリダイゼイション法による解析を行った結果、ATLにおいても染色体転座の切断点がTCR遺伝子座内にあることを証明した。
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