ラットを用いて、一過性腸管虚血・血流再開通処置によって生ずる小腸粘膜障害における一酸化窒素(NO)の役割を調べ、さらに一酸化窒素合成酵素阻害剤の障害に与える影響を検討した。その結果、1時間虚血・血流再開通後より著明なNO産生量の増加が再開通後1時間値をピークとして3時間程度認められた。この時間経過は組織障害の指標である乳酸脱水素酵素(LDH)活性の変化とほぼ一致していた。また、顕微鏡観察での組織学的検索においても再開通後1時間から3時間後において傷害の度合いが最も大きかった。なお、虚血1時間処置だけでは、組織傷害の度合いは軽微であり、NO産生量も増加しなかった。血管永久結紮群では、NO産生の急激な上昇は認められなかった。したがって、一過性虚血・血流再開通によりNO産生系が活性化され、産生されたNOにより腸管組績が障害を受けたと考えられ、虚血性腸管障害にNO系が重要な役割を担っているものと推測される。また、一酸化窒素合成酵素阻害薬であるN^G-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)1.0mg/kg-2.5mg/kgの虚血前投与により、虚血血流再開通後のこのNO産生量の増加は用量依存的に抑制され、LDH活性の増加も抑制された。さらに、組織学的検索によっても傷害の改善が認められた。したがって、低用量の一酸化窒素合成酵素阻害薬に虚血再開通により生じる腸管障害を改善する効果があることが示唆された。 次に、定量的受容体オートラジオグラフィー法を用いて一過性腸管虚血・血流再開通処置によって生ずる小腸粘膜障害におけるエンドセリン受容体の変動について検討した。その結果、小腸粘膜障害部位およびその近傍において、ET_B受容体の増加が認められた。したがって、小腸粘膜障害にエンドセリン系の関与も示唆された。
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