研究概要 |
今年度(平成9年)に我々は、摘出したモルモット心室乳頭筋の潅流停止及び心筋表面を流動パラフィン覆う方法で作られた虚血再灌流のモデルを利用し、心筋細胞の虚血再灌流損傷に対して細胞内クロライドイオンがどのような作用を示すか検肘を行なった。細胞内クロライドイオン活量の測定には、一側にクロライドイオン交換体(Fluka 24902)を充填した二連型イオン選択性微小電極を用いた。心筋細胞虚血期間に、細胞内クロライドイオン濃度は急激に増加し、その細胞内クロライドイオン濃度のピークはコントロールの18.7±3.5mMから虚血時の55.3±2.5mMになった。Cl^--free液を虚血10分前に灌流する及びスチルベン酸誘導体のSITS、DIDSを投与と、細胞内クロライドイオンの増加は軽減した。結果より、細胞内Cl^-イオンはモルモット心室筋細胞の虚血再灌流損傷において重要な役割を演じていることが示唆された。虚血期間にCl^--HCO_3^-交換系を活性化させる物質としては虚血時の細胞外へ流出あるいは蓄積したATP、ADPであると考えられる。そこで、摘出したモルモット心室乳頭筋における、細胞内クロライドイオン活量と静止膜電位を同時に記録し、アデノシン誘導体のATP、ADPの細胞内Cl^-動態変化に対する効果について検討した。ATPとADPは灌流液中のマグネシウムイオンに依存していなく、SITSとDIDSに感受する細胞内Cl^-活量の一過性上昇を誘導した。更に、ATP、ADPを投与した期間には、モルモット心室乳頭筋細胞の自発電気活動の発生頻度が細胞内Cl^-活量の上昇と共に増加した(MgATPの場合8/20例;NaATPの場合は9/20例;NaADPの場合では7/20例細胞が自発電気活動を発生した。コントロールと比べると有意差があった)。このATPとADPによって誘導された自発電気活動の発生はスチルベン酸誘導体の投与により抑制された。結果を見ると,モルモット心室乳頭筋における虚血時の細胞外にATPなどアデノシン誘導体の蓄積はCl^--HCO_3^-交換系を介して細胞内クロライドイオン活量の一過性増加と自発電気活動の発生を誘発し、心筋不整脈の産生と発達に重要な関連であることが示唆された。
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