研究概要 |
心筋細胞のCl^--HCO_3^-交換系は細胞内pHの調節に重要な役割を果たしている。従って、本研究ではCl^--HCO_3^-交換系の遮断薬であるスチルベン酸誘導体、4,4′-diisothiocyanostilbene-2,2′-disulfonicacid(DIDS)及び4-acetamido-4′-isothiocyanatostilbene-2,2′-disulfonicacid(SITS)のモルモット心室筋細胞の活動電位、細胞内pH及び細胞内クロライドイオン活量に対する作用を観察し、心室筋細胞虚血時のCl^--HCO_3^-交換系がどのように作用しているかについて検討を行なった。実験では、摘出したモルモット心室乳頭筋にガラス微小電極法を用いて、心筋細胞活動電位を測定し、二連型イオン選択性微小電極で細胞内pH、細胞内Cl^-と静止膜電位の測定を行なった。細胞内pHト細胞内クロライドイオンの測定は、一側にイオン交換体を充填した二連型イオン選択性微小電極で行なった。心筋虚血のモデルとして、摘出したモルモット心室乳頭筋の灌流停止及び心筋表面を流動パラフィンで覆う方法により作った模擬虚血を用いた。心筋細胞虚血では、徐々に静止膜電位の低下、APDの短縮及びVmax、収縮振幅の減少をきたし、最後には活動電位と収縮力が消失した。細胞内pHは有意に減少し、細胞内クロライドは顕著的に増加した。Cl^--HCO_3^-交換系の阻害薬であるSITS、DIDS(0.1mM〜0.5mM)を虚血10分前に投与、あるいは灌流液中のCl^-イオンをグルコン酸で置換すると、心筋細胞虚血による活動電位消失時間は延長し、静止膜電位の脱分極とAPDの短縮及び虚血による細胞内アシドーシスは有意に抑制された。更に細胞内クロライドの上昇も軽減された。結果より、スチルベン酸誘導体の虚血心筋細胞に対する保護作用は、虚血の際に活性化されたCl^--HCO_3^-交換系の遮断によることが示唆された。心筋細胞内pH及び細胞内クロライドイオン濃度の調節に対するイオン交換系遮断薬の薬理作用の多様性と重要性を認識することは心筋虚血と不整脈発生のメカニズムの解明と治療薬の開発において今後の重要な課題であると思われる。
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