最終年度にあたり、今回の科学研究費補助金の交付によって構築することができたラット腎微小循環観察記録システムについて、その概要を日本薬理学会誌の実験技術にとりまとめた。さらに現在、顕微鏡観察下に腎微小血管における血流速度を測定するシステムの開発に取り組んでいる。これには主として研究分担者の国立循環器病センターの南山求博士があたり、予備的なレベルではあるがdual slit法による連続赤血球速度測定が可能となっている。今後、この計測システムを確立し、1個の糸球体をはさんで上流と下流に存在する抵抗血管の血管径の変化と血流量を同時に測定することにより、単一糸球体レベルの血流調節に血管作動物質や薬剤がどのように関わるかを検討する予定である。一方、これらのミクロのレベルでの検討と平行してマクロのレベルでの腎血流調節におけるアデノシンの関与について検討を加えた。その結果、アデノシンA2受容体は腎輸入細動脈、輸出細動脈のいずれも同程度に拡張させることを明らかにした。さらに尿生成にA2受容体はほとんど寄与しないことも明らかとなった。また、別の実験で脂肪酸のβ-酸化の阻害薬である4-pentenoic acidによって腎糸球体濾過量の低下とともに尿細管での水電解質の再吸収が抑制され、同時に腎アデノシン産生が著明に増加することを見いだした。しかしながら、この際起こる腎糸球体濾過量の低下にはアデノシンA1受容体は関与していないことを明らかにし、アデノシン以外の機序が関与する可能性を示唆した。
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