此れ迄、アルツハイマー型或は脳血管障害型痴呆に対して奏効する薬物は未だ開発されていない。その原因としては痴呆症の適当な動物モデルが作成できないことがあげられる。現在、作成されている痴呆症の一般的な動物モデルは脳虚血やスコポラミン投与によって誘発される学習障害であるが、その障害は一過性であり、ヒトの老化に基づく脳の非可逆的神経変性状態と結び付けるには無理がある。そこで此れ迄と比べてより完全な脳の非可逆的神経変性に近い痴呆症モデルを作成するため、Vitamin B1(VB1)欠乏ラット及び嗅球摘出マウスの学習障害に及ぼす影響について検討した。前者のモデルについてVB1欠乏食で飼育すると3週間以降にMouse-Killing behavior、痛覚感受性の低下等の異常行動が出現し、それらの行動は顕著に認められる飼育後期に塩酸チアミンを投与しても消失しないことから脳の非可逆的神経変性によって惹起されることを報告している。また、嗅球摘出モデルについて、アルツハイマー病患者が嗅覚障害を示すこと及び嗅核に神経原線維変化、老人班が多発する事等嗅球が痴呆症に関係すると報告されている。学習行動の観察にはStep-through型受動回避反応装置を用い、学習行動を経日的に検討した。即ち、明暗室よりなるその反応装置の明室にマウスを入れた後マウスが暗室に移動すると電気刺激が加えられる。正常マウスは再び明室に入れられても殆ど暗室には移動しないが学習障害マウスは明室に入り易くなり、その反応潜時は短縮される。VB1欠乏食で飼育すると経日的に暗室までの反応潜時が短縮されるが2週間目において対照群と比較して有意なその潜時が短縮された。また、嗅球摘出マウスにおいても反応潜時は日数の経過と共に短縮し、嗅球摘出1及び2週間目で有意であった。このようにVB1欠乏食によっては飼育2週間後に、嗅球摘出によっては1週間以降に学習障害マウスを作成することが出来た。
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