研究概要 |
平成8年度本研究助成金では、日本人をはじめとする東洋人で約20%が欠損者であることが示されているP450分子種であるCYP2C19欠損者検索を、従来の薬物動態学的パラメータの算出により評価する方法に比べより侵襲の少ない遺伝子型の判定を指標としたRFLP-PCR法により、小数例被験者を対象に遺伝子型(wt:野生株,m1:exon5に変異,m2:exon4に変異)と表現型(EM,PM)との関連性について検討した。その結果、遺伝子型がMutant Homoの場合には表現型が酵素欠損と判定しうる可能性が明かとなったが、Hetero接合体では一貫した明らかな判定は困難であった。このような結果を踏まえ、本年度は被験者数を更に増やし、さらなる詳細な検討を行った。本年度本研究事業においては被験者数を50例にして検討した。Omeprazoleを用いた表現型の判定においてはCYP2C19により生成される代謝物であるomeprazole5位水酸化体生成と未変化体の血清中濃度比を指標に行った。尚、採血時間等は昨年度の結果を基にomeprazole服用後2および3時間後の値を用いて評価した。その結果12例がCYP2C19欠損者(PM)である可能性が示された。表現型が明かとなった被験者のうち遺伝子型検索に対する試験の口頭及び文書による説明を行い、同意の得られた28例に対して更に検討を試みた。その結果、omeprazole5位水酸化能が正常な被験者(EM)は28名中21名で認められた。これら被験者の遺伝型を検討した結果、ホモ型を示した中でwt/wt型(exon4:wt/wt,exon5:wt/wt)は6例で全てEMの表現型を示し、一方、m1/m1型(exon4:wt/wt,exom5:m1/m1)の5例は全てPMであった。ヘテロ型を示したwt/m1型(exon4:wt/wt,exon5:wt/m1)は11例、wt/m2型(exon4:wt/m2,exon5:wt/wt)は5例およびm1/m2型(exon4:wt/m2,exon5;wt/m1)は1例に認められた。wt/m_1型では11例中10例がEMを示したが、1例PMと判定された。wt/m2型の5例は全てEMを示し、1例認められたm1/m2型の表現型の判定は不可能であった。 本検討を行った事より、遺伝型は特殊な例を除き表現型と良好な関連性を示し、スクリーニング的表現型判定法として極めて有用であることが示された。しかし、ヘテロ型遺伝子を有するごく一部の例において表現型と一致しない結果が示されたことは、遺伝型による判定が未だ確定的な判断基準としては不十分である可能性を示しており、また、今回用いた変異部分以外の変異を生じている可能性を示唆するものであり、今後更に詳細に検討していく必要があるものと考える。
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