情動の調節をはじめ、多くの神経科疾患において、脳内ドパミン神経系が重要な役割をはたしていることがよく知られている。そこで本研究では、脳内ドパミン神経系がその作用発現に重要であるオピオイドゃコカインなど依存性薬物による自発運動促進作用におよぼす糖尿病動物脾臓由来因子の影響について、ドパミン受容体の機能変化と関連させつつ検討を進め、以下のような結果を得た。 1)ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスにおける自発運動活性は対照群マウスに比べ、有意に増大していた。ストレプトゾトシン投与後と同時にインスリンを投与し、血糖値の上昇を抑えたマウスにおいては、自発運動活性の増大は認められなかった。しかし、ストレプトゾトシン投与後、4日目よりインスリンを投与し、血糖値の調節を行ったマウスにおいては、自発運動活性の有意な増加が観察された。 2)ストレプトゾトシン投与前に、脾臓を摘出した糖尿病マウスの自発運動活性は、対照群マウスに比べほとんど変化がみられなかった。しかし、ストレプトゾトシン投与4日後以降に脾臓を摘出しても、糖尿病マウスにおける自発運動活性の増大は影響を受けなかった。これらのことより、糖尿病マウスにおける自発運動活性の増加に脾臓由来の何らかの因子が関与していることが明かとなり、脾臓由来因子の形成には血糖値の上昇の持続が重要な要因となることが示唆された。 3)糖尿病マウスにおいて、中脳辺縁系におけるドパミンDX_1受容体数は有意に減少していた。しかし、ドパミンの代謝回転は有意に増大していた。これらのことより、糖尿病マウスにおける自発運動活性の亢進には、ドパミン受容体機能の亢進ではなく、ドパミン神経終末よりのドパミン遊離機構の変化が関与していることが示唆された。
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