肝薬物代謝酵素欠損症に基づく薬物副作用の発現を未然に防止する有力な試みとして、薬物代謝酵素の遺伝変異の遺伝子診断が行われている。初年度には、我が国に特に遺伝子変異に基づく代謝欠損者が多いとされるチトクロームP450(CYP)酵素である、CYP2C19の遺伝子診断体制の確立が行われた。当初参考にしたde Moraisの方法(1994)は手法上の問題があることが判明したため、新たに久保田ら(1996)の方法を導入しCYP2C19遺伝子診断法を確立した。また、近年注目されつつあるCYP2C9に対しても遺伝子診断法をWangら(1995)の方法に準じて確立した。これらの方法を利用し、CYP2C9に特定の遺伝変異を有する患者では臨床上重要な抗凝固薬であるワルファリンの代謝能力が野生型を有する患者より大幅に低下し過剰な抗凝固作用に基づく副作用の発現を招く事を明らかにした。また、CYP2C19についてもプロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾールが新たな代謝能力評価のモデル薬物と成りうる事を発見した。これらの結果はCYP2C9および2C19により代謝される治療域の狭い薬物を適切に使用する上で重要な知見であると考える。
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