我々の見いだした11種のヒト血清コリンエステラーゼ(ChE)変異のうち、コドン330におけるLeuからIleへのミッセンス変異(L330I)の7例のヘテロ接合体にDN、FNの僅な低下が確認された。また一例のホモ接合体例では特にFNの低下が著しく、この変異が本邦に特有なF型変異であると推定していた。本研究にてはこのL330I変異ChEを発現させwild typeの性状と比較し、F型変異の性状を示すか否かを検討した。 ChEcDNAはDr Oksana Lockridgeの好意により提供を受けた。平成8年度には、このDNAを大腸菌に導入し組換え体を確立した。次いで、L330I(nucleotide no 1201T-->A)変異体を作成した。このL330I変異組み換えDNAを同様に大腸菌に導入し組換え体を確立した。 平成9年度はwild typeと昨年作成したL330I変異ChEを含むプラスミドDNAをリン酸カルシウム法でヒト胎児腎臓細胞(293;American Culture Collection CRL 1573)にトランスフェクトしてChEを発現させた。この二種のChEの発現蛋白を比較したところChE活性は正常の約1/3に低下していた。DN、FNも共に低下しており、特にFNの低下が著しかった。これらの結果はL330I変異のホモ接合体の血清中の性状とほぼ同様であった。従ってこの変異のみで、活性低下、dibucaine耐性、NaF耐性というF型の表現型を示すことが証明された。L300I変異は本邦以外では報告されていないことから、日本人型のF型変異であると考えられた。
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