研究概要 |
我々は20年前からGC/MS分析なしには診断が困難な先天代謝異常症のハイリスク児に対する診断支援サービスを行ってきた。今回、日本医用マススペクトル学会と日本マススクリーニング学会の合同で以下の試験研究を行った。即ち、尿の試料調製法を改良、簡略化し、6生月時に施行する神経芽細胞腫を除く21疾患の新生児マススクリーニング・パイロットスタディーを石川県下の2,953名の新生児を対象として行った。 1)1例のメチルマロン酸尿症(わが国では最初の発症前診断例)、2)6例のシスチン尿症、3)11例の一過性高チロシン血症、4)68例の一過性ガラクトース高排泄児の計86例を異常と判定した。このうち、早産児、低出生体重児は1、2)にはなく、3)では82%と高率で、4)は26%であった。一過性ガラクトース高排泄児ではガラクチトール、ガラクトン酸の増加はなくガラクトース血症と区別できた。追跡調査できなかったシスチン尿症の3例と、3、4)を除いても、発見率は4/2,953例(1.4/1000例)で、心身障害発症の観点から新たな知見が得られた。 メチルマロン酸尿症の症例は現在も無症状であるが、定期的に観察している。良性のメチルマロン酸尿症も数例報告があるが、良性であることの理論的な説明が遺伝的にもまだなされていない現在、このような症例の発見は今後、遺伝因子および後天的因子の両面からの発症機序の解明等、大いに学術に寄与するものと考える。シスチン尿症の解析を行って、シスチン尿症のマーカーとしてはシスチンのみでなく、リジンも重要であることが判明した。そこで、ω-アミノ酸であるリジンの定量性を改善するために安定同位体標識リジンを内標準に用いることを決定した。シスチン尿症の発症前診断は、発症に関わる先天的(DNA)、後天的因子解析、ひいては発症阻止あるいは治療法の進歩に役立つものと考えられる。 機器メーカー3社のGC/MSの専門家と4試験研究機関の担当者と合同で、1年間に4回の条件検討委員会を開催した。
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