研究概要 |
癌化学療法に伴う味覚識別能の実態を明らかにする目的で、癌化学療法が治療の主体となる血液・造血器腫瘍疾患患者で化学療法を受けた入院中の患者45名について治療前・治療中(4日目)・治療後(治療後10日目)に試薬滴下法による味覚識別能の測定を行った。4種類(甘味・塩味・酸味・苦味)試薬を舌上の鼓索神経支配領域にマイクロピッペットで,20マイクロリットル滴下し評価した.分析は対応のあるt検定を行った.同時に食事摂取量や嗜好調査を行い,以下の結果を得た。 1.甘味・塩味・酸味・苦味のうち癌化学療法の影響を強く受けていたのは塩味であり,識別閾値の平均値は治療中敏感になり,治療後は有意に鈍感になっていた(治療前と後P<0.05,治療中と後P<0.01) 2.性別の味覚に及ぼす影響は女性の甘味と塩味で認められた.年齢では若年者,高齢者ともに塩味,喫煙の有無では、甘味と塩味で影響が認められた. 3.癌化学療法剤の種類では、抗生物質剤の影響を強く受けていた.治療中・治療後の重回帰分析の結果では,治療中の苦味と副腎皮質ホルモン剤,治療後の塩味・酸味と抗生物質剤の関係が大きくなっていた. 4.食事摂取割合は治療前8.3割,治療中7.7割,治療後6.8割であり,治療後がもっとも少ない.治療中・治療後に食べられない物は油っぽい物,魚介類が多く,さっぱりした物,麺類,酢の物,パン,ス-プ類はよく食べられていた. これらのことより治療後10日目は塩分に対する味覚が鈍感になっているために,食事をおいしくとるには,油っぽい物を減らし,麺類など塩分の味付けを集中させる料理の工夫が必要である.
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