筆者は日本の高度経済成長期に東京都の一定地域に出生した乳児とその親を対象として生後3ヶ月時点から長期縦断的研究を実施してきた。本研究の目的はこれらの被検児を対象としてかれらが成人初期に達した時点において発達の様相・健康状態・ライフスタイルと関与する諸変数を横断的および縦断的に検討し、リスク児・者へのサポート・システムの戦略構築に資することであった。方法は、第1次調査として質問紙法、第2次調査として訪問による面接法を用い、次のような成果が得られた。 結果と考察:(1)第1次調査によって成人初期の子ども201名、母親170名、父親168名から回答を得た。一般に健康状態良好と想定されるこの時期に生涯発達の観点からリスクのある不健康群が約20%あった。これらのリスク者をスクリーニングする方法(3領域10項目)を考案し、第2次調査の訪問面接法によってこの方法の有効性が確認された。 (2)成人初期の子どもをもつ中年期の父母を対象として子育て評価尺度Appraisal of Child Rearing(略称ACR)を考案し、それぞれの自己概念、健康状態との関係を検討した。その結果、父母ともに自己概念の高い群はともに低い群に比較してかれらの健康状態は良好であり、ACR得点とも関連があった。すなわち、子育ては母親のみの役割ではなく父親の参加が必須であり、父親の健康状態にも関連することが明らかになった。 (3)父母が乳児期から成人初期まで子育てに利用した資源を調査した結果、長期追跡群と非追跡群の間で子育て支援の潜在的ニーズに違いのあることが明らかになった。 これらの結果は子ども発達によって生じる発達的問題developmental problemsを早期に見つけ、支援に結び付けるprimary interventionの戦略が必須であることを示唆していた。また、子育てを親の生涯発達の視点からとらえる必要性も示唆している。
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